CGI

2005年08月25日

「明るい家族計画」

「よし。ベトナム式のやり方を試そうか」
「なに、ぃっ?」
「お母さんが質問攻めにする」
「……お父さんは?」
「黙って見てるか、さっさと仕事に行ったほうがいい。まあそれよりさ」
「お母さんなのね。ぃっ」
「そう」
「魔法の言葉があるの?」
「いや――」
「っ。」
「授業はどうだった? 算数はできた? 給食はおいしかった? 帰りに誰と遊んだの? 宿題はあるの?」
「……で?」
「そしたら、子どもは答えるのに夢中で息ができないくらいになる」
「へぇ」
「短い質問を、とにかく機関銃のようにぶっ放すんだ。イメージできた?」
「いいから早く」
「ん」
「早く、横隔膜の痙攣を止めてよ。ぃっ。あの子が揺れて怖いって言ってるの」
「ま、ゆっくりやろうよ。知佳、お母さんに電話してみ」
「電話、遠い。――ぃっ」
「……よし。じゃ、プエルトリコ式のやり方を試そう」

(おわり)

後書き・コメントなど
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「熱中ダンスチューン」

 友達に奨められたダンスチューンバンドのCDを借りてみた。
 早速コンポにかけ、冷蔵庫からライトビールを持ってくる。おっ、いきなり一曲目から来るじゃんか。いいじゃん、いいじゃん。ライブ版だけあって、期待以上にぶっ飛んだハイでブギーなトラックばっかりだ。
 三曲目の後にメンバー紹介が始まった。マイクに舐めつくようなDJのもだえる声がステージに響く。「オン・ギトゥアー、ケリィー!」ギタリストがアドリブで軽妙なリフをかき鳴らす。観客にパフォーマンスで応えているのだ。「オン・ベェース、ポール!」ベースの力強いチョッパーが過熱する。観客が拍手で彼らを祝福する。「オン・ドラァムス、ジャッキィー!」スプラッシュ・シンバルを一発ぶちかまし、豪快に手数を入れて打ち鳴らす。
 演奏メンバーはこれで終わりのはずだが、DJが再び観客を呼び戻した。
「オン・トランポリィン! カワタァニー!」
 ――え? 耳を澄ますと、かすかに何かギシンギシンと鳴っている。
「わあっ!」と突然観客が湧き立った。割れんばかりの歓声と拍手の渦。
 え、何なに? いま何かしたの? 慌ててコンポにかじりつくと、もう四曲目に移っていた。

(おわり)

後書き・コメントなど
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「山門の入口に」

 山門の入口に堂々と「犬連込厳禁」という立て札があった。中年夫婦はふと足を止めた。
「何だろうか――」
「えっ。散歩じゃないの?」
「ああ……。え、そうだよなぁ」
 おそらくは、散歩の時に寺に入っては糞の始末をしない飼い主に業を煮やした寺の住職がたまりかねてこんな立て札を出したのだろう。それはわかる。わかるが、犬に『連れ込み』という言葉は普通使わないように思う。そう言われたら、何らかの肉体関係というか、情欲の嵐というか、劣情をそそるというか、どうもそういった関係を想像してしまう。
 そうなると浮かぶのは、犬を境内に連れ込んで、そこらの藪やお堂の中に侵入し、××したり、××したり、あまつさえ×××××の×××を××××に××××したりする情景である。それに気づいた住職が「こら〜!」と箒を振り回して怒鳴りつける。しかし結局、行為の跡だけが残されていて、それの後始末をしなければならない小坊主が、「和尚様、わたし、もうたまりません」と泣きながら訴えると、その小坊主を猫かわいがりしている住職は「よしよし、わかった。ワシに任せておけ」とばかりに、立て札を作って立てる(もちろん達筆)――といったプロセスなのである。
 やはり『連れ込み』という言葉はもっと慎重に選ぶべきだろう。
「住職ともあろう御方が……」
「何が?」
 日本語の機微を解せぬ妻を置いて、夫は一足先に山門をくぐった。

(おわり)

後書き・コメントなど
posted by sleepdog at 18:46| 北海道 ????| Comment(2) | TrackBack(0) | 旧作倉庫 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

「象を捨てる」

神はうっかり手を滑らせて、地球を支える象を一頭捨ててしまった。
案の定、地盤がグラグラ揺れだした。
残った三頭の象が一斉に悲鳴を上げる。
神は慌ててマウスを動かし、象をゴミ箱から元に戻した。

(おわり)

後書き
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「魔法」(3)

 全国の何万人という暇なおばさんが見つめる生番組に1本の電話がつながっている。オールバックの司会者は仏頂面で第一声を切り出した。
「奥さん、今日はどうしたの?」
「あの……」
 機械で声が変えられている。女性は言いよどみ、その後が続かない。
「言いにくいのはよぉく分かってるよ。でもさ、せっかく電話してきたんだから」
「わたし……魔法が使えなくなっちゃったんです」
「ええ?!」スタジオがどよめく。
 しかし、熟練の司会者は動揺を見せず話を続けた。
「奥さん、お年は?」
「米倉涼子さんと同い年です」
「ご主人は何をなさってるの?」
 少し間があった。
「ザリガニです」
「は? どういうこと?」
「ケンカしてザリガニに変えちゃいました。でも、元に戻せなくなって……」
「何で急に使えなくなったの?」
「2人の強い愛がないとダメなんです!」
「ザリガニじゃ愛せない?」
「体臭が我慢できなくて……。洗剤でよく洗ってみたんですけど、主人もそれきりぐったりしちゃうし」
「これ……どうですかねぇ?」
 司会者はゲストに振った。スタジオは『洗剤はどんな成分の物を使ったのか』という話題で白熱した。魔法の国の暇なおばさんたちは固唾を飲んで見つめ続ける。

(おわり)

後書き
posted by sleepdog at 18:39| 北海道 ????| Comment(0) | TrackBack(0) | 旧作倉庫 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

「魔法」(2)

 この手に宿る、今もって鮮明なひとつの感触。二十五年を生きてきて、一度だけ、あれは“それ”らしきものだったのかと思える出来事がある。
 大学時代のある日。
 自転車でバイトに向かう途中だった。寝坊したせいで全然時間がなかった。それなのに、起きぬけの飢餓に耐え切れず、マクドナルドに飛び込んだ。注文すると、スマッシュを打ち返すようにすぐ出てきた。
 足早に店を出て、自転車をこぎながら大急ぎでチーズバーガーセットを食べる。ハンドルを拳で押え、ハンバーガーとコーラとポテトを交互に口へ運ぶ。信号に引っ掛かればブレーキをかけて止まる。通行人はベルを鳴らしてすかさず避ける。
 そして、バイト先に着くまでのわずか五分間余りで、僕はポテト一本すら残さず全て食べ切った。いつ思い返しても、本当にどうやって食べたのか自分でも分からない。

(おわり)

後書き
posted by sleepdog at 18:37| 北海道 ????| Comment(0) | TrackBack(0) | 旧作倉庫 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

「魔法」(1)

 僕の彼女はひとつだけ魔法を使える。
「タイムカプセルを埋めた場所を探し当てる」魔法。
 皆はっきり言いたがらないけれど、人間は誰もがそういうような魔法を必ずひとつ使えるようだ。例えば、僕の弟は「喉に引っ掛かった魚の骨を取る」魔法。僕の友人の田中は「触るだけで食べ物の賞味期限が分かる」魔法。木下は「ペンキの塗り立てを一目で判別する」魔法。
 という具合だ。
 僕は自分のがどんな魔法かまだ知らない。気になるけれど、分かってしまったら、それはそれで寂しいものだ。いつも通り暮らす中でちょっとした奇蹟が訪れる瞬間を、僕は何気なく待ち続けている。ジャングルジムの高層階に登って。

(おわり)

後書き
posted by sleepdog at 18:35| 北海道 ????| Comment(0) | TrackBack(0) | 旧作倉庫 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

「二人だけの秘密」

Pは知っている。“休め”をすれば、Rになることを。
Rは当然それを知っている。しんどい時、Pに代りを頼むから。
知らなかったのは他の24人とあなた。
秘密を見破る魔法の言葉を教えましょう。
SECRET
「気をつけ!」
SECPET

(おわり)

後書き
posted by sleepdog at 18:22| 北海道 ????| Comment(0) | TrackBack(0) | 旧作倉庫 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

「お祝いのロケット」

隣町に「小祝い牧場」というのがある。
牛が沢山いる。羊もわりといる。犬もちょろっといる。
あと、おじさんがざっと見て三十人はいる。
全員毎朝同じバスで通っている。
おじさん達は毎日家畜に適当に草を与え(犬にも草をあげている)、
それ以外何にも世話をせず、せっせとロケットを作っている。
『小祝いのロケット』(登録商標)だ。
音が小さい。色も地味。メッセージはおじさん達の手書きだ。
でも、ナチュラルを愛する人々からの注文が絶えない。
世の中に、ナチュラルを愛する人は日々着実に増えている。

父さん(四十五歳)も来週からそこに勤めることになった。
歓迎の『小祝いのロケット』が用意されているといいなぁ。
午後は、一緒にバスの定期を買いに行こう。

(おわり)
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「二人だけの秘密」

Pは知っている。“休め”をすれば、Rになることを。
Rは当然それを知っている。しんどい時、Pに代りを頼むから。
知らなかったのは他の24人とあなた。
秘密を見破る魔法の言葉を教えましょう。
SECRET
「気をつけ!」
SECPET

(おわり)

後書き
posted by sleepdog at 18:18| 北海道 ????| Comment(0) | TrackBack(0) | 旧作倉庫 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

「お祝いのロケット」

隣町に「小祝い牧場」というのがある。
牛が沢山いる。羊もわりといる。犬もちょろっといる。
あと、おじさんがざっと見て三十人はいる。
全員毎朝同じバスで通っている。
おじさん達は毎日家畜に適当に草を与え(犬にも草をあげている)、
それ以外何にも世話をせず、せっせとロケットを作っている。
『小祝いのロケット』(登録商標)だ。
音が小さい。色も地味。メッセージはおじさん達の手書きだ。
でも、ナチュラルを愛する人々からの注文が絶えない。
世の中に、ナチュラルを愛する人は日々着実に増えている。

父さん(四十五歳)も来週からそこに勤めることになった。
歓迎の『小祝いのロケット』が用意されているといいなぁ。
午後は、一緒にバスの定期を買いに行こう。

(おわり)
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「お祝いのロケット」

隣町に「小祝い牧場」というのがある。
牛が沢山いる。羊もわりといる。犬もちょろっといる。
あと、おじさんがざっと見て三十人はいる。
全員毎朝同じバスで通っている。
おじさん達は毎日家畜に適当に草を与え(犬にも草をあげている)、
それ以外何にも世話をせず、せっせとロケットを作っている。
『小祝いのロケット』(登録商標)だ。
音が小さい。色も地味。メッセージはおじさん達の手書きだ。
でも、ナチュラルを愛する人々からの注文が絶えない。
世の中に、ナチュラルを愛する人は日々着実に増えている。

父さん(四十五歳)も来週からそこに勤めることになった。
歓迎の『小祝いのロケット』が用意されているといいなぁ。
午後は、一緒にバスの定期を買いに行こう。

(おわり)
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「午前8時の脱走計画」

夏真っ盛りの、ある日の話。
独房の一室がもぬけの空であることに監守が気付いた。
どうやらいつの間にか脱走したようだ。

鉄格子を破られた形跡はまったくない。そのうえ目撃者もいない。
ただ、奇妙な足音だけを耳にした者が何人かいた。
それが午前8時のこと。その独房に日が差し込み、暑さが増す時刻だった。

その後、午前11時頃に、駅前を巡回中の若い婦警が、
群れをなしてあたふたと疾走する「ところ天」を目撃した。

鉄格子を抜け出したのは寒天だった――という他愛もない話。

(おわり)
posted by sleepdog at 18:11| 北海道 ????| Comment(0) | TrackBack(0) | 旧作倉庫 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

「金属バット」(2)

 魔法使いの国に再び魔女狩りの季節が訪れた。
 魔女たちは皆、箒を捨て、金属バットに乗り換える。

(おわり)

後書き
posted by sleepdog at 18:09| Comment(0) | TrackBack(0) | 旧作倉庫 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

「金属バット」(1)

 妻と、久し振りに大喧嘩をした。

 次の朝、食卓には焼魚と赤だしとご飯と、金属バットが二本置いてあった。
 代わりに私の箸が見当たらない。これで飯を食えと言うのだろうか。まったく、鬼の箸でもあるまいに……。昨晩の酔った私を「鬼」だと、なるほど、そういうことか。

 テーブルから退かそうと手に取ると、二本ともきれいに洗ってあることに驚いた。金色や銀色や藍色の光沢が朝焼けに照らされ、元はこんな輝きであったのかと目を奪われる。
 そして、朝早くに流し台で金属バットを洗う妻の姿が想い浮かんだ。
 あれほど愚情をぶちまけたのに、食卓には泥汚れひとつ落とさない。艶やかな金属の肌を静かに撫でていると、赤だしの湯気で目頭がじわりと蒸れた。

 台所に立つ妻の寡黙な後ろ姿に、謝りの言葉を二度告げる。
 私の箸は、金属バットの陰にこっそり隠れていた。妻が声で教えてくれたのだ。

 ざくっ ざくっ ざくっ ……
 やがて台所から、野沢菜を切る音が聴こえてきた。私の好物だ。
 蜆の殻が彩る赤だしを手に包む。ずずっと啜ると、妻との六年間がふくよかに香った。

(おわり)
posted by sleepdog at 18:04| Comment(0) | TrackBack(0) | 旧作倉庫 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

「渡り蟹の夢」

 木陰で休んでいると、赤茶けた甲羅をした渡り蟹が横に来て、夢をわたしに語ってくれた。それは、自分が船長になって広い世界を翔け巡るという大きな夢だった。
 海辺に群れる赤紫の浜梨――その花をひとつ摘み取って渡り蟹にあげると、とても喜び、船の旗印にすると言ってくれた。
 夏の浜霧がぼわぼわと立ちこめて、頬をやさしく湿らせてゆく。

 目を醒ますと、渡り蟹の話はまだ続いていた。
 注意してよく聴けば、仲間は全部猿らしい。船と言うのも、宇宙へ行く船だった。

(おわり)

後書き・コメントなど
posted by sleepdog at 18:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 旧作倉庫 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

「妻の主食」

 妻の主食はドラゴンだった。
 彼女がどうやってそれを仕留めるか知らないが、私が勤めに出ている昼間に団地の裏山へ入って狩りをしているようだ。私が帰宅する頃にはすっかり解体されて彼女のおかずになっている。
 かと言って彼女は別に屈強でもなく、むしろ細腕の部類に入るのだが、うまくやるコツがあるらしい。昔一度だけ尋ねたことがあるが、恥ずかしがって結局話してくれなかった。

 幸福な日々は続き、妻は身重になった。そして産婦人科の先生から激しい運動を止められてしまった。
 その夜――彼女は今までになく切羽詰まった面持ちで私をイスに座らせると、自分の部屋から一抱えほどもある巨大なしゃもじを持って来た。目の前に立たれると、異様な圧迫感があった。
 それから、妻はそれを使いながら、実家に伝わる狩猟法なるものを手取り足取り説明してくれた。彼女にぴたりと寄り添われ、号令に合わせて巨大しゃもじを縦へ横へと振り裁く。だが、そんなもの頭に入るわけがない。彼女はいくつのときに習ったんだろうと、そればかり気になった。

 明日から私は彼女のために命を張るのだ。
 結婚をする前に、こういう事態まで想定できる男はどれほどいるだろうか。

(おわり)

後書き・コメントなど
posted by sleepdog at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 旧作倉庫 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
メロメロパーク