妻と、久し振りに大喧嘩をした。
次の朝、食卓には焼魚と赤だしとご飯と、金属バットが二本置いてあった。
代わりに私の箸が見当たらない。これで飯を食えと言うのだろうか。まったく、鬼の箸でもあるまいに……。昨晩の酔った私を「鬼」だと、なるほど、そういうことか。
テーブルから退かそうと手に取ると、二本ともきれいに洗ってあることに驚いた。金色や銀色や藍色の光沢が朝焼けに照らされ、元はこんな輝きであったのかと目を奪われる。
そして、朝早くに流し台で金属バットを洗う妻の姿が想い浮かんだ。
あれほど愚情をぶちまけたのに、食卓には泥汚れひとつ落とさない。艶やかな金属の肌を静かに撫でていると、赤だしの湯気で目頭がじわりと蒸れた。
台所に立つ妻の寡黙な後ろ姿に、謝りの言葉を二度告げる。
私の箸は、金属バットの陰にこっそり隠れていた。妻が声で教えてくれたのだ。
ざくっ ざくっ ざくっ ……
やがて台所から、野沢菜を切る音が聴こえてきた。私の好物だ。
蜆の殻が彩る赤だしを手に包む。ずずっと啜ると、妻との六年間がふくよかに香った。
(おわり)
2005年08月25日
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