CGI

2005年08月25日

「金属バット」(1)

 妻と、久し振りに大喧嘩をした。

 次の朝、食卓には焼魚と赤だしとご飯と、金属バットが二本置いてあった。
 代わりに私の箸が見当たらない。これで飯を食えと言うのだろうか。まったく、鬼の箸でもあるまいに……。昨晩の酔った私を「鬼」だと、なるほど、そういうことか。

 テーブルから退かそうと手に取ると、二本ともきれいに洗ってあることに驚いた。金色や銀色や藍色の光沢が朝焼けに照らされ、元はこんな輝きであったのかと目を奪われる。
 そして、朝早くに流し台で金属バットを洗う妻の姿が想い浮かんだ。
 あれほど愚情をぶちまけたのに、食卓には泥汚れひとつ落とさない。艶やかな金属の肌を静かに撫でていると、赤だしの湯気で目頭がじわりと蒸れた。

 台所に立つ妻の寡黙な後ろ姿に、謝りの言葉を二度告げる。
 私の箸は、金属バットの陰にこっそり隠れていた。妻が声で教えてくれたのだ。

 ざくっ ざくっ ざくっ ……
 やがて台所から、野沢菜を切る音が聴こえてきた。私の好物だ。
 蜆の殻が彩る赤だしを手に包む。ずずっと啜ると、妻との六年間がふくよかに香った。

(おわり)
posted by sleepdog at 18:04| Comment(0) | TrackBack(0) | 旧作倉庫 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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