妻の主食はドラゴンだった。
彼女がどうやってそれを仕留めるか知らないが、私が勤めに出ている昼間に団地の裏山へ入って狩りをしているようだ。私が帰宅する頃にはすっかり解体されて彼女のおかずになっている。
かと言って彼女は別に屈強でもなく、むしろ細腕の部類に入るのだが、うまくやるコツがあるらしい。昔一度だけ尋ねたことがあるが、恥ずかしがって結局話してくれなかった。
幸福な日々は続き、妻は身重になった。そして産婦人科の先生から激しい運動を止められてしまった。
その夜――彼女は今までになく切羽詰まった面持ちで私をイスに座らせると、自分の部屋から一抱えほどもある巨大なしゃもじを持って来た。目の前に立たれると、異様な圧迫感があった。
それから、妻はそれを使いながら、実家に伝わる狩猟法なるものを手取り足取り説明してくれた。彼女にぴたりと寄り添われ、号令に合わせて巨大しゃもじを縦へ横へと振り裁く。だが、そんなもの頭に入るわけがない。彼女はいくつのときに習ったんだろうと、そればかり気になった。
明日から私は彼女のために命を張るのだ。
結婚をする前に、こういう事態まで想定できる男はどれほどいるだろうか。
(おわり)
(8月25日 旧ブログより転載)
☆snowgameさん
最高ですねえ!この話。
とまどいながら、奥さんのためとはいえ、予想外の展開に戸惑う旦那の心理がうまく描かれていますね。
しゃもじを振りまくってる二人の姿が目に浮かぶ〜。
主食がドラゴンなんて、そりゃすごいー。パワーつきそうだあ。
★sleepdog
夫はやっぱり妻のピンチには体を張らないと。だって夫婦は運命共同体ですからっ。
しかし、明日から旦那が巨大しゃもじを持ち歩いたら、きっとヨネスケみたいな姿になるんでしょうね。妻にしても、ドラゴンが主食ならとんでもない子供が生まれてくる可能性があります(^^)。
書いた後でもこれだけいっぱい妄想が膨らむんです。むふふふ、私もこれはかなりのお気に入りです。
2005年08月25日
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