CGI

2005年08月14日

「海に来たかったわけじゃない」

 これは知り合いの話なんですが、大学時代に、そのころ買ったばかりのバイク――いばったって中古ですが――に乗って、友人は夕暮れの海岸線を気持ちよく走っていました。すると、市街地から来た大型トラックが割りこんできて、彼は慌てて道を譲りました。そのときヘルメットの視界の端に真っ赤な色が映り、地面に火の粉が散っているように見えたそうです。しかし、彼は浜辺に下りる別の道へ入ったので、トラックとはそれきりでした。

 浜辺でぼんやり夕涼みをしていると、砂を踏む小さな足音を立て、浴衣姿の可愛い女の子が彼に近づいてきました。見知らぬ顔ですが、親しみのある笑顔を浮かべています。同じくらいの年格好で、彼も興味を持ち、「お祭りに行ってたんですか?」と聞いたそうです。そうすると『みんなと離れちゃったんです。海に来たかったわけじゃないけどね』と彼女は寂しげに答えたそうです。
 彼女は浴衣のまま砂の上に座り、まだ夜更けには早い時間だったのですが、退屈だから一緒に花火をしたいと言うもので、彼も売店で花火を買って二人仲良く始めました。浴衣の袖をちょんとしぼり、『ほらほら、くるくるくる〜』と花火を回して笑う彼女の姿を眺めながら、楽しい時間を過ごしたそうです。ところが、次第に口数が減り、『何だか気持ち悪いかも……』と低い声でうめくので、彼が急いで冷たいジュースを買って戻ると、彼女の姿は消えてなくなっていました。
 それきりでした。心配になった彼は汗だくになって海辺を探したそうですが、彼女はとうとう見つかりませんでした。

 翌朝の新聞で、彼は一台のトラックが海岸線の道路から転落したという話を知りました。そして、その後輪には女の子の片腕が巻き込まれていて、浴衣の袖がからみついていたそうです。市街地の夏祭り会場から10キロも離れた転落地点まで――


本作品はベノさん主宰『怪談採集』に投稿した怪談です。
よかったらぜひ感想をお寄せください。
posted by sleepdog at 02:40| Comment(0) | TrackBack(0) | 超短編 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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