あらゆるものが願望のままに生きていた太古の時代、
恐るべき大罪を飲みこんだ海鳴りが空をも覆う渦となり、
すべてが一個の卵に封じこめられた。
一個の卵。
時は眠る。
さびしげな鐘の音が霧雨のように降りしきる。
扉をくぐって来たぼくは、眠りつづける都市の空を見上げた。
塔だけが青白い気炎を吐いて、ただそこに生きていた。
都市の叡智を吸い尽くした孤高の塔は、展望台に小さな庭をこしらえた。
水もなく、風もなく、歯車の花が大小さまざまに咲き乱れ、
時計職人たちが摘み取りながら、都市の時計をひとつずつ修復していく。
展望台のへりから長い髪がさわりと覗き、
かごいっぱいに歯車を抱えた娘と目が合った。
インディゴ・ブルーの大きな瞳が夕立のようにすばやく潤む。
何かのはずみでかごから歯車が転げ落ち、ぼくの目の前でぶつかった。
一個の卵。
ひびが走る。
さびしげな鐘の音が霧雨のように降りしきる。
ごう、ごう、ごう、と海鳴りが恐るべき大罪を呼び覚ます。
都市の時計は次から次へと逆行し、
扉の向こうに澄み切った水の世界が口を開いて待っている。
(おわり)
『500文字の心臓』第26回自由題(選者:松本楽志氏)掲載作品。楽志さん、お選びいただき、ありがとうございます。
さて、実はこの絵は、Yahoo!ブログで知り合った、かりんさんの描かれた幻想画にインスピレーションにした作品です。完全なオリジナルではないのですが、ご本人には先に作品をお知らせしてありました。原画にある「塔」や「卵」という素材を生かしつつ、個人的には「歯車の花畑」というのが美しく表現できればと考えました。
よろしければ、かりんさんの原画のほうもぜひご鑑賞ください。とても素晴らしい作品です。
http://blogs.yahoo.co.jp/kln569/3987717.html
2005年07月25日
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