妻の主食はドラゴンだった。
彼女がどうやってそれを仕留めるか知らないが、私が勤めに出ている昼間に団地の裏山へ入って狩りをしているようだ。私が帰宅する頃にはすっかり解体されて彼女のおかずになっている。
かと言って彼女は別に屈強でもなく、むしろ細腕の部類に入るのだが、うまくやるコツがあるらしい。昔一度だけ尋ねたことがあるが、恥ずかしがって結局話してくれなかった。
幸福な日々は続き、やがて妻は身重になった。そして産婦人科の先生から激しい運動を止められてしまった。
その夜――彼女は今までになく切羽詰まった面持ちで私をイスに座らせると、自分の部屋から一抱えほどもある巨大なしゃもじを持って来た。目の前に立たれると、異様な威圧感がある。
それから、妻はそれを使いながら、実家に伝わる狩猟法なるものを手取り足取り説明してくれた。彼女にぴたりと寄り添われ、号令に合わせて巨大しゃもじを縦へ横へと振り裁く。だが、そんなもの頭に入るわけがない。彼女はいくつでこれを習ったんだろうと、そればかりが気になった。
「そう、グリップをしっかりね!」
「ああ」
明日から、私は彼女のために命を張るのだ。
結婚をする前に、いったい誰がこういう事態まで想定できただろうか。
(おわり)
<後書き>
「500文字の心臓」第16回自由題(選者:タカスギシンタロ氏)投稿作を一部改稿。
台詞を入れたらグッと夫婦愛に満ちた作品になりました(笑)。
感想お待ちしております。
2005年06月28日
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