あたしの完敗だった。三つ上の従兄弟は、この勝負ならいまの俺に敵はいないと豪語した、実際その通りだった。四隅はおろか四辺を見事に押さえられ、たった一ヵ所カラスの忘れ物みたいな黒い斑点を残し、盤上はすべて白く塗りつぶされた。あたしは賭けに負けてしまった。従兄弟は得意げな顔で冷たいミルクをたっぷりと盤に注ぎ、たちまち盤からあふれ出し、床にひろがり、壁もカーテンもどんどん白く変わっていく。
そのうちあたしの服にもしみて、安っぽいスカートは純白のドレスになっていく。気恥ずかしさでうろたえながら、盤上の黒一点をあわてて握りしめた。もうすぐ全部、従兄弟が待ち望んだ世界になってしまう。いつの間にか天井の高い聖堂のまん中で、天窓から白い光が降り注ぎ、あたしはおしろいで顔を固めた友人たちから白ばらのブーケを手渡され、白馬のひく馬車が玄関まで迎えに来ている。
白いタキシードに着替えた従兄弟は息を整え、微笑み、あたしの手から最後の一枚を取り上げる。プラチナのリング台をくっつけて、再びあたしの手に戻す。
「さあ、きみの手で裏返して」
世界にたった一枚残された黒い色。裏返すその指の震えがいつまでも止まらなかった。
(おわり)
『500文字の心臓』第54回タイトル競作投稿作品。結果、○11、△4で「正選王」をいただきました。どうもありがとうございます。
2005年12月09日
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